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牧草の地で導入が広まる小麦で地産地消 JA中標津

2022.06.17

北海道の酪農地帯・中標津町では、不可能とされた小麦栽培が定着し、地域にパンやラーメン、うどんなどで地産地消が根付いてきた。「町に新たな食文化を創りたい」と農家の佐々木大輔さん(48)らによる努力が結実。ほとんど牧草だった農地は、小麦などの畑が広がるようになった。(尾原浩子)

同町は積算温度が低い。4月上旬で積雪があり、遅いと5月連休にも雪が残る。JA中標津によると約40年前に小麦の栽培を試みたが、夏は晴れの日が少なくカビや病害虫が発生し、倒伏などもあり栽培不適地とされてきた。

酪農地帯の同町で2011年、小麦栽培に挑戦したのが酪農家でもある希望農場の佐々木さんだ。「新たな食文化を創り地域を活気づけたかった」と振り返る。道内主産地は4月に種をまくが、同町では低温で5月下旬にずれ込み、うまく生育しないなど当初は苦労した。

JAは佐々木さんの挑戦を受け12年、農業改良普及センターや振興局などと小麦栽培プロジェクトを設立。13年、佐々木さんの他4農場が合計22ヘクタールを栽培。乾燥施設は佐々木さんが設立した。

それから10年。手探りで改善を重ね、独自の栽培体系が確立しつつある。10アール収量が道内で上位になった年もある。JA経営企画課の藤原崇課長は「主産地と同じ手順で栽培しても失敗すると分かった。天候と農地の状況を細かく確認し、防除の回数や時期などを農家に伝えている」と説明する。そして22年、9農場が68ヘクタールを栽培するまでに広がった。

・パン開発 全国にファン

佐々木さんらは栽培だけでなく地元業者と連携。町内でパン店を3店舗経営する「万両屋」は、町産の小麦や牛乳、生クリームを使った生食パンや、和菓子屋と連携して開発した「中標津あんぱん」を売り出す。発売して5年以上、安定した人気で店頭に加え通販などで全国にファンがいる。安田隆代表は「乳製品以外に土産がなかった。商品化まで苦労したが、今は土産に定着してきた。農家の苦労と夢が詰まった小麦を私たちがパンにして売り出せていることがうれしい」と笑顔だ。

・ラーメン 癖になる食感

町の人気ラーメン店「あら陣」は、麺の1割を町産小麦にする。麺のこしやスープを合わせることなどに苦労し、完成まで3年半かかった。新谷賢司代表は「地域の食材で仕上げた全国どこにもない食感と味。小麦なんて無理と言われても挑戦した生産者に男ぼれし、手間暇かけて作り上げた」と話す。年によって小麦の品質に違いがあり、安定が難しいが「麺の食感が独特」などと全国的に評価が高い。ギョーザの皮にも町産小麦を使い、もちもちと弾力ある食感が人気だ。

小麦の導入によって、佐々木さんは一部の農地で畑作と牧草で輪作するようになった。輪作は地力向上や敷料確保など酪農経営にも利点がある。佐々木さんは大豆や小豆、大麦の栽培も開始。町では納豆、あんこ、ビールも生まれた。

佐々木さんは取り組みが地域の自給力を高め食料安全保障にもつながると考える。「小麦が地域内で循環して裾野が広がった。次世代に生産基盤を残すことが今を生きる農家の使命だ」と話す。

2022/05/26(木) 日本農業新聞 生活・社会